第1章: AlmaLinux 9への導入
1.1 AlmaLinux 9の背景と特徴
1.1.1 AlmaLinux誕生の経緯
AlmaLinuxは、Red Hat Enterprise Linux(以下、RHEL)のバイナリ互換を目指すコミュニティ主導のLinuxディストリビューションです。もともと、RHELのクローンとしてはCentOSが広く利用されてきましたが、2020年末にCentOSの開発方針が変更されたことを受け、多くのユーザーや企業が「RHEL互換の安定した無償ディストリビューション」の後継を求めるようになりました。その中で、CloudLinux社が中心となってコミュニティと協力して立ち上げたのがAlmaLinuxです。
CentOS Streamへの移行
CentOSは「RHELのクローン」という立ち位置から、RHELリリース前のコードを試験的に先行提供する「CentOS Stream」に変わり、RHELクローンとしての役割が消滅しました。これにより、CentOSの安定性と長期サポートを求めていたユーザーは、Rocky LinuxやAlmaLinuxなど、代替ディストリビューションへ移行し始めました。
1.1.2 AlmaLinux OS Foundationの役割
AlmaLinux OS Foundationは、AlmaLinuxの開発や運営を支える非営利組織です。世界中の開発者やユーザーがコミュニティとして参加できるオープンな体制を整えており、以下のような活動を行っています。
- 開発・メンテナンス: RHELリリースに追従する形でAlmaLinuxのバージョンをリリースし、長期にわたるセキュリティパッチやバグ修正を提供。
- ドキュメント整備: 公式サイトやWikiを通じてインストールガイド、トラブルシューティングなどの情報を発信。
- コミュニティサポート: フォーラムやSNSでのユーザー同士のやり取りを促進し、情報交換やノウハウ共有を支援。
1.1.3 AlmaLinux 9のリリースサイクル
AlmaLinuxは、RHELと同じリリースサイクルを持ち、各バージョンに対し長期的なメンテナンスを提供します。AlmaLinux 9はRHEL 9に対応しており、10年程度のサポートライフサイクルが見込まれます。
- メジャーリリース: RHELが大きくアップデートされるタイミングで、AlmaLinuxも追従。
- マイナーリリース: 機能追加やバグ修正が行われるリリース。RHELとのバイナリ互換性を維持し、通常6〜8か月ごとに実施される。
- セキュリティアップデート: 深刻な脆弱性が見つかった際には、緊急パッチとして随時リリース。
1.2 AlmaLinux 9の主要な特長
1.2.1 RHEL互換性による安定性
AlmaLinux 9は、RHEL 9とバイナリ互換を持つため、RHEL向けに提供されるソフトウェアやドライバをそのまま利用することができます。エンタープライズ環境で求められる安定性や長期サポートを、無償で享受できる点が大きなメリットです。
1.2.2 多様な導入形態
- 物理サーバー: BIOS/UEFI環境でのインストール。企業のオンプレミスデータセンターにも適合。
- 仮想環境: KVMやVMwareなどのハイパーバイザー上での運用が容易。
- クラウド環境: AWSやAzure、Google Cloudなど主要クラウドプロバイダでAlmaLinuxイメージが提供されており、クリック数回でインスタンスを作成可能。
1.2.3 コミュニティサポートの充実
AlmaLinuxは、CentOSの後継という位置付けもあって、短期間でユーザーコミュニティが拡大しました。フォーラムやチャットで活発な情報交換が行われており、初心者から上級者まで疑問や問題を素早く解決しやすい環境が整っています。
比較: Rocky Linux
Rocky LinuxもRHEL互換ディストリビューションとして人気が高いです。AlmaLinuxと同様にコミュニティ主導で開発されており、技術的には大きな差はありません。最終的にはサポート体制やコミュニティの雰囲気など、好みに合わせて選択するケースが多いです。
1.3 AlmaLinux 9の利用シーン
1.3.1 企業のエンタープライズサーバー
- ミッションクリティカルな環境: RHEL相当の安定性を求めつつ、ライセンス費用を抑えたい企業に適合。
- テストとステージング: RHELの検証環境として利用し、ローカルで試した成果を本番のRHELへ適用する形態も可能。
1.3.2 クラウドやコンテナベースの開発環境
- コンテナホスト: PodmanやDockerを導入してコンテナプラットフォームとして活用。
- CI/CDパイプライン: JenkinsやGitLab Runnerを動かすベースOSとして利用することで、長期的な安定稼働を実現。
1.3.3 教育機関・学習目的
- Linux学習: エンタープライズ寄りのディストリビューションを学ぶことで、実務に近いスキルを習得。
- カスタマイズ可能: 豊富なパッケージとRHEL系のドキュメントが多数存在するため、教育現場での採用例もある。
1.4 AlmaLinux 9のインストールメディアと公式サポート
1.4.1 インストールメディアの種類
- DVD ISO: 大部分のパッケージが含まれる。オフラインインストールやネットワーク不安定な環境向け。
- Minimal ISO: 必要最低限のパッケージのみ。ネットワーク経由で追加パッケージを取得するため、回線速度が確保できる環境向け。
- Boot ISO: ブート専用。インストールはネットワークリポジトリから取得。
1.4.2 公式イメージの配布先
- AlmaLinux公式サイト: https://almalinux.org/
ミラーリストから地域や国を選択してISOをダウンロードできる。 - クラウドプロバイダ: AWSなどでAlmaLinuxイメージを選択可能(AMIの検索)。
1.4.3 公式サポートとコミュニティ
- AlmaLinux OS Foundation: 非営利での運営だが、CloudLinux社や他企業からの支援があり、安定した開発体制が確立されている。
- フォーラム・Slack/Discordコミュニティ: 技術的なQ&Aや運用上のTipsが日々共有されている。
- 商用サポート: パートナー企業によって、エンタープライズサポートを有償で提供している場合もある。
1.5 AlmaLinux 9を始める前の準備
1.5.1 ハードウェア要件
- CPU: x86_64アーキテクチャ(Intel/AMD)の2GHz以上を推奨
- メモリ: 最低2GB、推奨4GB以上
- ストレージ: インストールや運用するサービスに応じて最小20GB以上
UEFI対応
近年のマシンはUEFIブートが主流。AlmaLinux 9はUEFIに対応しているが、古いBIOSマシンでも基本的には問題なく動作する。
1.5.2 ネットワーク環境
- オンラインリポジトリ: Minimal ISOやBoot ISOを使う場合、インターネット接続が必須。
- オフライン環境: DVD ISOが便利だが、追加のパッケージが必要な場合は手動でリポジトリを用意するなど、別途工夫が必要。
1.5.3 セキュリティ上の考慮
- SSH鍵認証の準備: インストール後にリモート運用するなら、鍵を作成しておくとスムーズ。
- ファイアウォールとSELinux: Red Hat系標準のセキュリティフレームワークが有効な状態でインストールされるので、基本的な知識を押さえておく。
1.6 AlmaLinux 9を試してみる
1.6.1 仮想環境でのテストインストール
- VirtualBox / VMware Workstation: 個人PCで簡単に仮想マシンを作成し、AlmaLinux 9をインストールできる。
- KVM / libvirt: Linuxホスト上でよりネイティブに近いパフォーマンスで仮想化が可能。
手順の流れ
- 仮想マシンを作成し、ISOイメージをCD/DVDドライブに割り当てる。
- BIOS設定かUEFI設定を適宜調整(仮想マシンの場合は特に問題なくブートすることが多い)。
- AlmaLinux 9のインストーラー(Anaconda)が起動したら、インストール先ディスクやネットワーク設定を行う。
1.6.2 クラウド上でのテスト
- AWS: EC2のAMIリストからAlmaLinuxを検索してインスタンスを作成。
- Azure/GCP: マーケットプレイスやコミュニティイメージを選択してデプロイ。
- メリット: 高速に環境を立ち上げて試せるほか、不要になったらすぐに破棄できる。
1.7 学習のまとめ
- AlmaLinux 9の背景: CentOSの開発方針変更を受け、RHELクローンとして誕生したコミュニティ主導のディストリビューションである。
- 主な特徴: RHELとのバイナリ互換、長期サポート、幅広い利用シーン、活発なコミュニティサポートなどが挙げられる。
- 利用シーン: 企業のエンタープライズサーバー、クラウド・コンテナ環境、学習用途など多様に展開可能。
- インストールメディア: DVD ISO、Minimal ISO、Boot ISOなど、用途に応じた形式が用意されている。
- 導入前の準備: ハードウェア要件の確認、ネットワーク環境(オンライン/オフライン)、セキュリティ対策(SSH鍵認証、firewalld、SELinuxなど)の基本理解が必要。
- 実際のテスト方法: 仮想環境(VirtualBox、KVMなど)やクラウド(AWS、Azureなど)を活用すると、気軽にAlmaLinux 9の機能を試せる。
次章へのつながり
次の章(第2章)では、ダウンロードしたISOイメージを使ってAlmaLinux 9を実際にインストールし、初期設定を行う手順を詳説します。今回の深堀りで得た背景知識や事前準備を踏まえながら、インストールプロセスをスムーズに進められるでしょう。また、インストール後に取り入れるべき基本的なセキュリティ設定やネットワーク設定のポイントも解説しますので、ぜひ継続して学習してください。